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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(オ)117号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人工藤日出男の上告理由第一、二点について。

原審が、本訴請求について控訴人(上告人)に対し第一審判決よりも不利益な判決をしたことは明らかであり、控訴審は、当事者の一方から控訴の申立があつた場合には、相手方から附帯控訴の申立がないかぎり、控訴人に対し、第一審判決よりも不利益な判決をしえないことは、所論のとおりである。

しかし、記録によれば、被控訴人ら代理人は原審に昭和三三年一〇月二七日付「被控訴人の準備書面」と題する書面を提出し、右書面には請求の趣旨として「控訴人は被控訴人サミに対し金二〇万円、他の被控訴人に対しそれぞれ金一〇万円ならびにこれに対する昭和三一年一月二二日から完済まで年五分の割合の金員をも併せ支払せよ」との記載があり右準備書面は昭和三三年一〇月三〇日の原審第三回口頭弁論期日に陳述されており、右書面はその内容上、附帯控訴および請求の拡張の申立書と解するのが相当である。してみれば、右の拡張された申立の範囲内で被控訴人らの請求を認容した原判決には所論の違法はない。論旨は理由がない。

同第三点について。

原審が、控訴人大分県は本件国道管理の瑕疵に基づき発生した本件事故の損害を賠償する責に任じなければならないとし、なお、控訴人の過失相殺の主張は採用できないとした判断は、挙示の証拠関係に照らし相当である。慰藉料額の算定に被害者の過失をしんしやくするかどうかについては、前示の如くすでに被控訴人らから附帯控訴の申立があつた以上、原審が第一審判決に覊束されるいわれはない。所論は、ひつきよう、原審の裁量に任された事項についての判断を非難するにすぎず、採用できない。

同第四点について。

本件は、被上告人らが上告人の不法行為によりこうむつた損害の賠償債務の履行およびこの債務の履行遅滞による損害金として昭和三一年一月二二日以降年五分の割合による金員の支払を求める訴訟であることが記録上明らかである。そして、右賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものと解するのが相当である。したがつて、これと同趣旨に出でた原判決は正当であるから、所論違憲の主張は前提を欠き、その他の論旨は、右と異る見解に立つて原判決を攻撃するにすぎず、論旨はすべて採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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